不妊症について

Ⅰ.不妊症とは

生殖可能年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠しない場合を不妊症といいます。現在は、その一定期間については、「1年」というのが一般的となっていますが、妊娠のために医学的介入が必要な場合は、つまり、治療をしないと妊娠が困難な場合は、期間を問わないこと、としています。(平成27年8月、日本産科婦人科学会)

Ⅱ.不妊検査を受ける時期は?

女性の加齢と共に徐々に妊娠率は下がってきます。不妊の割合は20歳代前半までは5%以下ですが、20歳代後半より9%前後の不妊率になり、30歳代前半で15%、30歳代後半で30%、40歳以降では約64%が自然妊娠の望みがなくなると推定されています。ですから、検査や治療を受ける時期も女性の年齢によって異なることになります。30歳を超える場合には、1年ぐらいして妊娠にいたらなければ不妊スクリーニング検査を考えてよいでしょう。

Ⅲ.不妊症の原因は男女どちらが多いか?

WHO(1996)の報告では、女性側が原因(女性不妊)41%、男性側が原因(男性不妊)24%、男女双方に原因24%、原因不明11%と言われています。意外と思われるかもしれませんが、男性側の原因によるものも多いので、不妊スクリーニング検査でも必ず精液検査が必要となります。

WHOによる7273カップルの不妊症の原因調査

Ⅳ.不妊症の原因となる疾患は?

1.女性因子

a.内分泌因子
間脳―下垂体の機能障害をはじめ甲状腺、副腎皮質疾患のため無排卵になります。急激な体重減少やストレスも排卵障害を起こします。高齢になれば卵巣自体の老化が原因で排卵障害を起こします。
b.卵管因子
卵管因子に関しては、性行為感染症(クラミジアや淋菌感染症など)や子宮内膜症による癒着などが原因になって、不妊症になることがあります。女性側の不妊原因では最も多いといわれています。
c.子宮因子
先天性の子宮奇形や子宮筋腫、子宮腺筋症(内性子宮内膜症)、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症などが挙げられます。機能的なものとして子宮頸管粘液分泌不全などがあげられます。
d.免疫性不妊
抗精子抗体や抗透明体抗体の存在が受精障害の原因となります。

不妊症の原因:女性
徳島大学大学院産科婦人科学分野教授 苛原 稔先生提供

2.男性因子

a.造精機能障害
原因不明の造精機能障害が最も多いですが、染色体異常によるものもあります。
b.精子輸送路の通過障害
先天性精管欠損や鼠径部(ソケイヘルニア等)の手術後の精管閉塞が代表的です。
c.精嚢・前立腺の障害
クラミジア、淋菌等の性行為感染症によるものが多くみられます。
d.射精障害・性交障害
多くの原因が挙げられるが機能的なものが多くみられます。

不妊症の原因:男性
徳島大学大学院産科婦人科学分野教授 苛原 稔先生提供

Ⅴ.不妊原因をつきとめるためのスクリーニング検査は?

1.女性に行われる検査

a.基礎体温測定
排卵の有無の診断や、黄体機能不全の診断に有用です。婦人体温計を薬局で買って、毎朝起き上がる前に測ります。
b.ホルモン測定
下垂体ホルモンや卵巣ホルモン、甲状腺ホルモンなどが測定されます。
超音波検査 卵巣腫瘍や嚢胞、子宮筋腫の診断以外に卵胞発育や子宮内膜の状態を見ることができます。経膣超音波法が一般的です。
c.子宮卵管造影
X線を用いて子宮の奇形や卵管の通過性障害の有無などを診断します。造影剤を使いますのでアレルギーに注意します。
d.頸管粘液検査
排卵期の頸管粘液分泌不全の診断や排卵時期の推定に利用されます。
e.腹腔鏡検査
麻酔をかけての検査ですので、4~5日の入院が必要ですが、骨盤内の癒着や子宮内膜症などは、この検査で初めて明らかになることも多いです。この検査までして異常が認められなければ、真の原因不明不妊ということになります。
f.子宮鏡検査
筒状の小さいカメラを子宮腔内入れて、ポリープや筋腫あるいは子宮腔癒着の有無を診断します。引き続き子宮鏡下に手術を行うこともあります。

2.男性に行われる検査

a.精液検査
4~5日間の禁欲の後、マスターベーションで採取した精液を検査します。精液量・運動精子数・精子奇形率・精子濃度などが検査されます。採取1時間以内に検査します。

3.原因不明不妊

上記の検査を行っても原因がわからない不妊を原因不明不妊といいます。加齢による卵巣予備能の低下、卵の老化が最も大きな原因と考えられていますので、近年の晩婚化の進行によりその割合は増えていくものと考えられます。

Ⅵ.不妊の治療法は?

1.タイミング指導

スクリーニング検査で決定的な不妊原因がない場合や、性交回数が少ないカップルに対して、尿ホルモン検査(尿中LH)や超音波検査、頸管粘液検査等で排卵時期を推定し、性交のタイミングを指導します。

2.排卵誘発法

排卵障害のある場合、あるいはタイミング指導で妊娠にいたらなかった場合に行われます。妊娠率を高めるため、排卵している女性にも用いられることも稀ではありません(過排卵刺激といいます)。経口剤を服用する方法と注射による方法、あるいは両者を併用する場合があります。 卵胞が多く発育することがあり、卵巣過剰刺激症候群や多胎妊娠発生率の比較的高い治療法ですので、多数の卵が育ってきたときにはその周期はキャンセルすることが必要になることがあります。

3.人工授精

精液所見の悪い時以外にも、頸管粘液分泌不全や原因不明不妊の場合などに勧めます。妊娠できるまで4~5回を目途に行います。

4.体外受精・胚移植

卵管閉塞以外に原因不明不妊、強度の乏精子症等に有用で、上記の治療で妊娠に至らない場合には最終的にはこの手技が勧められます。ART(Assisted Reproductive Technology)といわれます。顕微授精(ICSI)もこの範疇にはいります。 日本産婦人科学会では、多胎妊娠を減らすため、一個の胚(または胚盤胞)移植が基本となっています。

5.手術療法

子宮筋腫や子宮奇形、卵管障害(閉塞や癒着)などが不妊の原因と考えられる時には手術を勧めます。開腹手術ですので入院治療が必要ですが、腹腔鏡や子宮鏡を利用した手術も可能な場合があり、負担が軽減されます。

Ⅶ.徳島県における不妊治療関連助成事業リンク

1.徳島大学病院不妊相談室

徳島大学病院内で不妊・不育相談(徳島県の委託事業)が受けられます。
http://www.tokudai-sanfujinka.jp/funinsoudan をご覧ください。
Webにて【徳島県不妊不育相談室】でも検索が可能です。

2.徳島県こうのとり応援事業(不妊治療費助成事業)について)

体外受精などの不妊治療を受けられた場合には助成金が給付されます。また徳島県独自で男性不妊治療手術(精子を精巣または精巣上体から採取するための手術)後の精子や精巣組織の凍結保存をした場合の助成があります。収入や年齢制限などがありますので詳細は、次のページをご参照ください。
https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kenko/iryo/2014012800709
Webにて【徳島県 こうのとり】で検索が可能です。

中山産婦人科 中山孝善

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